近年、BtoB企業におけるマーケティングやセールス、カスタマーサクセス部門の業務は急速に複雑化・高度化しています。その背景には、オンラインとオフラインが融合した顧客接点の増加、サブスクリプション型ビジネスモデルへの移行、顧客ロイヤルティ向上を目的としたエクスペリエンスの重要性など、さまざまな要因が挙げられます。
こうした変化に対応しながら、企業としては売上の最大化と効率化を同時に達成するための新たな組織戦略が求められています。
そうした中で注目されているのが「RevOps(Revenue Operations)」という概念です。
マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなど、売上に関わるすべての部門を横断的に最適化することで、顧客との関係性を強化し、持続的な売上成長を実現する仕組みがRevOpsの本質です。
本記事では、RevOpsの定義から導入メリット、導入を進める際の重要ポイントやKPI設計、さらに導入ステップとおすすめツール例までを網羅的に解説します。
RevOps(Revenue Operations)とは、企業の収益に直接関わる部門—主にマーケティング、セールス、カスタマーサクセス/サポートなど—を統合的に管理し、部門横断でプロセスやデータ、テクノロジーを最適化する組織体制もしくは運用モデルを指します。
※こちらの記事でも解説しています。
従来は各部門がそれぞれ独自の目標やシステムを運用していたため、データが分断され、顧客情報の共有が不十分であったり、施策の重複や漏れが発生したりする問題が起きやすい状況でした。
RevOpsは、そのような部門間の「サイロ化(情報やプロセスの断絶)」を解消し、顧客との接点を一貫した流れで管理することで、ビジネス全体としての売上最大化を狙う手法です。
具体的には、営業プロセスの標準化やマーケティングキャンペーンの横断管理、顧客データの一元化、受注後のカスタマーサクセス施策の連動などを通じて、顧客のライフサイクルを通じた継続的な収益増加を目指します。
特に、SaaSをはじめとする「サブスクリプション型ビジネス」では、契約を取るだけでなく、契約後の継続率やアップセル/クロスセルの活用が収益に直結します。そのため、マーケティングやセールスだけでなく、カスタマーサクセス部門といった「アフターセールス」の領域も非常に重要になります。
RevOpsは、これらすべてを一元管理し、顧客データの統合や契約更新の管理を円滑化する点で、特にサブスクリプション型ビジネスと相性が良いといえます。
<RevOpsの全体図と施策実行イメージ>
BtoB企業では、マーケティング部門・営業部門・カスタマーサクセス部門がそれぞれ独自にKPIを設定し、データを管理しているケースがよく見受けられます。例えば、マーケティングはリード数の獲得に注力し、営業は受注率や平均契約金額に注力、カスタマーサクセスは解約率やNPS(顧客ロイヤルティ指標)に注力する――という形です。
これ自体は間違いではありませんが、部門間の連携がなければ、リード品質のすり合わせや顧客が購入後に求める追加価値の把握などが不十分になりがちです。その結果、せっかくの商談機会やアップセルのチャンスを逃してしまう恐れがあります。
サブスクリプションモデルが広まることで、顧客との長期的な関係維持や契約更新率の向上が企業収益の鍵となっています。従来の一括購入型ビジネスでは、最初の購買決定がゴールと見なされがちでした。しかし、サブスクリプションモデルでは、契約後も顧客が満足して使い続けるための仕組みづくりが重要です。
ビジネスモデルの変革にあわせて、社内組織も買い手のライフサイクル全体を見据えたアプローチへ変わっていく必要があり、それを実現する仕組みとしてRevOpsが注目されています。
市場が成熟し、顧客が選択肢を増やす中で、単純に製品やサービスの機能だけでは差別化が難しくなっています。顧客体験(CX:Customer Experience)の品質が大きな競合要因となり、これを高めるために、組織内部門の連携が不可欠です。マーケティングが描いたブランド体験が、実際のセールス現場やカスタマーサクセスの対応と乖離していては、顧客は不信感を抱いてしまうかもしれません。RevOpsによって一貫性のある顧客体験を設計することが求められています。
近年、マーケティングオートメーション(MA)やカスタマーリレーションシップマネジメント(CRM)などのSaaSツールが急速に普及し、企業のデータ活用度合いが高まってきました。
しかし、部門ごとに異なるツールを使いこなしている場合、データの統合が進まず、部門間の分析精度が低下してしまうリスクがあります。RevOpsでは、こうしたツール群を全社レベルで統合管理し、データ基盤を整備する役割も担います。
RevOpsを導入する最大のメリットは、企業全体としての売上最大化を効率的に実行できる点にあります。
部門を横断して顧客データやKPIを共有することで、重複投資やコミュニケーションミスが減少します。また、マーケティングからセールス、カスタマーサクセスに至るまで、一連の流れに無駄がないため、コンバージョン率の向上や顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の拡大につながります。
従来の部門別管理では、リードを獲得した後に営業に渡した時点で、マーケティング部門は詳細を追いかけられない場合が多々あります。しかしRevOpsでは、最初の接点から継続利用やアップセル、クロスセル、解約予防まで、一連の顧客ライフサイクルを可視化・管理します。
これにより、「どのチャネルから来たリードが最終的にもっとも高いLTVをもたらすのか」「営業段階でどのくらいの確率で受注に至るのか」「契約後にどれだけ満足度を高められたか」など、ボトルネックや改善ポイントを特定しやすくなります。
マーケティング、営業、カスタマーサクセスが一体となり、一貫性のある顧客接点を提供できれば、顧客側から見ても企業とのやり取りに混乱がありません。担当者が変わっても、過去のやり取りや要望が引き継がれるため、顧客満足度の向上が期待できます。
また、顧客の課題解決プロセスをスムーズにサポートできることで、解約率の低減や追加のサービス導入につながりやすくなります。
部門間のデータが一元化されていれば、経営層や各部門の責任者が迅速に意思決定を行えます。
たとえば、市場環境の変化や新しい競合が登場した際にも、どの施策を強化すべきかを短時間で把握でき、機動的に戦略修正が可能になります。意思決定までのリードタイムが短縮されると、新しいキャンペーンや施策の実施スピードも向上します。
RevOpsを本格導入する場合、従来の縦割り組織ではなく、横断的なチーム編成や意思決定プロセスが必要になります。
具体的には、マーケティングと営業が一つの指揮命令系統の下に入る形や、カスタマーサクセスを営業部門と同等の立場で経営陣に直結させるなど、各企業の状況に応じた組織設計が求められます。既存の組織文化や評価制度をそのまま残してしまうと、部門間連携が形骸化しやすいため注意が必要です。
RevOpsの要となるのが、顧客データや活動ログの一元管理です。これを実現するためには、CRMやMAツールなどを統合して運用できるデータ基盤が不可欠です。
すでに複数のツールを導入している場合は、データ連携の仕組みを再検討しなければなりません。担当者レベルの頑張りだけではデータ整備が不十分になる可能性があるため、全社的なITインフラ投資やプロセス設計を見直すステップが不可欠となります。
RevOpsでは、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスが共通のゴールを共有することが求められます。これには、部門横断で統一されたKPIや評価指標が必要です。さらに、各担当者のモチベーションを保つためには、インセンティブ設計をゴールに合わせて最適化しなければなりません。
たとえば、カスタマーサクセス担当にも「アップセルに寄与した場合の報酬」を設けるなど、従来の評価基準を改めるケースが考えられます。
どれだけ優れたツールを導入しても、運用ガイドラインが曖昧だとデータ入力漏れや情報の重複が発生し、結局はサイロ化が再燃します。
ツールの利用ルール、入力フォーマットの標準化、定期的なデータクレンジングなど、ツール運用を長期的に支えるためのガイドラインを整備することが重要です。
RevOpsは全社変革の一環であるため、各部門の協力が不可欠です。そのためには経営層からの強いコミットメントが必要であり、適切なリソースや権限の付与、組織間の調整をリードする力が求められます。
トップダウンでの推進力がなければ、各部門の調整が難航してプロジェクトが遅延する可能性もあるため、あらかじめ経営層と認識を共有しておきましょう。
RevOpsを効果的に運用するためには、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスの3部門が相互連携し、共通のゴールに向かって取り組む必要があります。
以下では、各部門のKPI例と、RevOps視点での連携ポイントを解説します。
RevOpsの観点では、マーケティング部門は単にリード数を追うだけでなく、「実際の商談や成約につながるリードをいかに増やせるか」を重視します。また、セールス・カスタマーサクセス部門と連携し、既存顧客へのアップセル用キャンペーンなども企画するため、LTVを高める施策にも関わります。
RevOpsでは、セールス部門が受注に至るまでのプロセスをマーケティング・カスタマーサクセスと共有し、ボトルネックを特定します。
例えば、MQLの質が低い場合はマーケティング部門にフィードバックし、オンボーディング時に課題が多発する場合はカスタマーサクセス部門と対策を検討するなど、部門を超えた協力体制が求められます。
RevOps体制下では、カスタマーサクセス部門は単なるアフターサービスではなく、継続的な収益貢献の最前線と位置付けられます。
マーケティングやセールスから顧客情報を正しく引き継ぎ、契約後のオンボーディングや活用促進を丁寧にサポートすることで、解約率の低下とアップセルの増加を目指します。
最終的なゴールは、ビジネス全体での収益最大化です。
そのため、LTV(Customer Lifetime Value)とCAC(Customer Acquisition Cost)のバランスを定期的にモニタリングし、顧客一人あたりの収益性がどの程度あるかを評価します。
RevOpsでは、部門別KPIを踏まえつつ、統合的にLTV向上を図る点が特徴です。
最初のステップは、現行の組織体制や業務プロセス、利用ツールなどを棚卸しし、課題を明確化することです。具体的には以下の内容を洗い出します。
この分析に基づき、RevOpsを導入する目的—たとえば「受注率の向上」「解約率の低減」「LTVの最大化」—を明確化します。ここでの目的設定が曖昧だと、導入プロセス全体がブレてしまうため十分に時間をかけて検討しましょう。
次に行うのは、RevOpsを推進するための組織体制・ガバナンス設計です。具体的には、
既存の組織構造を大きく変えるケースもあれば、まずはプロジェクト横断チームとしてRevOpsタスクフォースを立ち上げ、小規模で実証を進めるケースもあります。自社のカルチャーや規模感に合ったアプローチを選択しましょう。
その後、テクノロジー面の整備に着手します。以下の観点で現状を分析し、必要なツールやシステム統合を検討します。
この段階で重要なのは「中長期的に見て拡張性のあるデータ基盤を構築する」ことです。
小手先の連携や部門単位のツール導入では、再びサイロ化が発生する可能性があります。最適なプラットフォームを選び、データ整合性と使いやすさのバランスを考慮してください。
組織とツールが整ったら、実際に運用するためのプロセス設計を行います。例えば、
RevOpsは単なるツール導入ではなく、組織カルチャーの変革を伴います。
そのため、各部門の担当者やマネージャーに対しては、なぜRevOpsが必要なのか、何を目指しているのかを共有する場を設け、納得感のある説明を行いましょう。
新しいツールやプロセスのトレーニングを実施し、周知徹底することで、現場レベルの協力を得やすくなります。
導入後は、KPIの定期測定や運用状況のレビューを行い、常に改善を続けます。
RevOpsは「導入して終わり」ではなく、データに基づいて施策をアップデートしていく継続プロセスです。経営環境や顧客ニーズは常に変化するため、組織やプロセスも柔軟に最適化していく必要があります。
HubSpotとは、マーケティングオートメーション(MA)やCRM、営業支援(SFA)、カスタマーサポート、コンテンツ管理(CMS)など、RevOps導入を実現するための「企業が顧客ライフサイクル全体を管理するために必要な機能が一体化した、AI搭載型のクラウドプラットフォーム」です。
BtoB企業を中心に世界各国で多くの導入実績があります。HubSpotの特徴は、下記の点が挙げられます。
本記事では、RevOps(Revenue Operations)の定義やビジネス背景、導入メリット、導入にあたっての重要ポイントやKPI、実際の進め方、そしておすすめツール例などを包括的に解説しました。
改めて要点をまとめると以下のとおりです。
BtoB企業が持続的な成長を実現するためには、単に多くのリードを獲得し、受注を増やすだけでは不十分です。
顧客との長期的な関係性を構築し、LTVを高めることで、強固な収益基盤を築くことができます。RevOpsは、まさにこの「長期的かつ全社的な視点で顧客と向き合う」体制づくりの要となる考え方です。
自社の現状を正しく把握し、経営戦略やビジネスモデルに合った形でRevOpsを導入・運用していくことで、競合が激化する市場においても持続的に成長し続ける企業へと変革できるでしょう。
ぜひ、組織やシステム、データ活用の観点から検討を進め、効果的なRevOps体制を構築していただければと思います。
以下の連載では、RevOps導入において、顧客接点となるマーケティング、営業、カスタマーサクセス部門を中心に「顧客接点のDXはなぜ必要なのか?」「どのように進めていくべきか?」について、以下のステップで解説しています。
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